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横浜地方裁判所 昭和51年(ソ)1号 決定 1976年4月23日

抗告人

菅沼稔

株式会社 ミノル

右代表者

菅沼稔

右両名代理人

秋山泰雄

外二名

主文

一  抗告人菅沼稔の本件抗告を却下する。

二  抗告人株式会社ミノルの本件抗告を棄却する。

三  抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

二本件記録によれば、小田原簡易裁判所(以下、原裁判所という。)において、昭和五〇年一月二二日、申立人を井沢弘とし、相手方を抗告人らとする同庁昭和四九年(イ)第六六号土地所有権移転登記手続等和解事件につき、右当事者間に即決和解が成立したとして、その旨の和解調書が作成された事実、右申立人井沢弘が、昭和五〇年二月三日、原裁判所に対し、和解調書のうち、申立人の住所の表示につき更正を求める申立をし、原裁判所が、同日、申立人の住所をその申立のとおり更正する旨の決定(以下、原決定という。)をした事実、原決定が、その決定書中の当事者の表示において、相手方を菅沼稔及び株式会社大倉と表示した事実並びに原裁判所が、昭和五一年二月六日、職権により、原決定の当事者の表示のうち「相手方株式会社大倉」とあるのを「相手方株式会社ミノル」と更正する旨の決定(以下、本件更正決定という。)をした事実が認められる。

三抗告人菅沼稔の抗告について。

更正決定に対する即時抗告は、右更正決定によつて不利益を受けた当事者のみが適法にこれをなしうるものであることはいうまでもない。

ところで、対立当事者の一方又は双方が複数存在する場合に、その内の一部の者に関する事項のみが更正された場合には、その者及びその相手方当事者が右更正につき利害関係を有することはいうまでもないが、その他の者は、特段の事情のない限り、右更正につき利害関係を有するということはできない。そして、前示の事実関係によれば、本件更正決定による原決定の更正は抗告人株式会社ミノルに関する事項についてのみなされているから、特段の事情のない限り、抗告人菅沼稔は、右更正につき何ら利害関係を有しないといわざるをえない。又、本件記録を精査しても、右特段の事情を窺うことはできない。よつて、抗告人菅沼稔の本件抗告の申立は不適法であり、却下を免れない。

四抗告人株式会社ミノルの抗告について。

(一)  抗告理由の第一点は、結局、和解の無効を主張するものであるところ、かかる主張は、和解無効確認の訴等によるべきは格別、和解調書の更正決定である原決定、さらには右決定を訂正した本件更正決定に対する即時抗告の理由となるものでないことは明らかであり、右は主張自体失当というべきである。

(二)  抗告理由の第二点は、本件更正決定が原決定の明白なる誤謬を更正するものではないというにある。

裁判上の和解調書に違算、書損その他これに類する明白な誤謬がある場合には、民訴法一九四条を準用して、裁判所は何時でも申立により又は職権をもつて更正決定をすることができるが、右にいう明白な誤謬にあたるか否かの判断は、当該和解調書の全趣旨を推究し、あるいは和解成立の基礎となつた資料を考量して、なされるべきものである。しかして、和解調書に右にいう明白な誤謬があつて更正決定がなされた場合に、同決定に重ねてなお表現上の過誤が存するときは、右更正決定は和解調書と一体をなすものであるから、その過誤が明白な誤謬にあたるか否かの判断もまた、和解調書自体に表現上の誤りがある場合と同一の資料、同様の推考に基づいて行なわれるべきは当然である。そうとすれば、原決定が、その当事者の表示中に「相手方株式会社大倉」と表現したのは、「相手方株式会社ミノル」の明らかな誤記であり、書類作成上の過誤による明白な誤謬といわねばならない。従つて、原裁判所が、右の部分を更正して和解調書の表示と一致せしめたのは相当であり、本件更正決定に違法はないというべきである。

(三)  以上、抗告人株式会社ミノルの本件抗告は、いずれも理由がないからこれを棄却すべきである。

五よつて、抗告費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。

(中田四郎 江田五月 清水篤)

抗告の趣旨及び理由<略>

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